RPE(主観的運動強度)とは|読み解き方とACWRでの活用法
「今日のジョグはどれくらいきつかった?」と聞かれて、あなたは何と答えますか。「まあまあ」「いつも通り」「結構しんどかった」。これを 1〜10 の数字一つに置き換えるだけで、自分の体の状態がデータとして可視化できる。それが RPE(Rating of Perceived Exertion / 主観的運動強度)という考え方です。
本記事では、RPE が何なのかを基本から解説し、traqqer の 統計機能 でどう読み解けばよいのかを紹介します。
RPE とは何か
RPE は 1962 年にスウェーデンの心理学者グンナー・ボルグが提唱した指標で、運動のきつさを自分の感覚で数値化するスケールです。日本スポーツ協会の解説でも「自覚的運動強度」として標準的に扱われています。
オリジナルのボルグスケールは 6〜20 で、スケールの数字 × 10 がそのときの心拍数の目安になるよう設計されていました(例: RPE 15 → 心拍 150bpm 程度)。一方、現代のスポーツ現場では扱いやすい 1〜10 の修正版(CR-10 系) が広く使われており、traqqer もこの 1〜10 を採用しています。
RPE 主観 1 とても楽 2 楽 3 やや楽 4 ふつう 5 ややきつい 6 きつい 7 かなりきつい 8 とてもきつい 9 非常にきつい 10 限界
「主観なんて当てにならないのでは?」と思うかもしれません。しかし RPE は、心拍数や乳酸値といった単一の客観指標では捉えきれない体内で同時に起こっている複数の生理反応(疲労、暑熱、脱水、睡眠不足、メンタルなど)を統合的に反映してくれます。だからこそ、ハイテクな心拍計を持っていなくても、RPE 1 つで実用十分なトレーニング負荷管理ができるのです。
traqqer での RPE 入力
traqqer のクイック入力には、専用の RPE 入力ボトムシートがあります。実装を見ると分かりやすいのですが、画面はこうなっています。
- スライダーで 1〜10 を選ぶ(触覚フィードバック付き。値が変わるたびに小さくバイブる)
- 数字に応じてラベルとバッジ色が変わる(緑→オレンジ→赤の信号色)
- 練習時間(分)も同じ画面で入力
スライダーの色は、
- 1〜3 → 緑(ブランドカラー)
- 4〜5 → オレンジ
- 6〜7 → ディープオレンジ
- 8〜10 → 赤(エラーカラー)
と段階的に変わります。これは「数字の意味を読む前に、視覚で危険度が伝わる」ことを意図したデザインです。
入力された RPE と練習時間は、内部で トレーニング負荷(Training Load)= RPE × 練習時間(分) という非常にシンプルな式に換算されます。これは sRPE(session RPE)法と呼ばれる、世界中のスポーツ現場で標準的に使われている指標です。
統計画面で読み解く 3 つの指標
traqqer の 統計画面は、RPE と練習時間から自動的に算出される 3 つの指標を、ダッシュボード形式で表示します。
1. 総負荷(Total Load)
期間中の sRPE 負荷の合計値。負荷 = RPE × 時間 を日ごとに足し上げたシンプルな数字ですが、「先月より練習量が増えた/減った」を一目で把握するのに最適です。
2. ACWR(急性慢性負荷比)
ここが traqqer の統計機能の主役です。ACWR とは:
- Acute(急性) = 直近 7 日の平均負荷
- Chronic(慢性) = 直近 28 日の平均負荷
- ACWR = Acute ÷ Chronic
例えば慢性負荷が 1500 AU で急性負荷が 1400 AU なら、ACWR は 1400 / 1500 = 0.93。
スポーツ医学の研究で、この値は怪我のリスクと強い相関があることが知られています。
0.80 〜 1.30 が “Sweet Spot”(最も怪我リスクが低い領域) < 0.80 は under-training(フィットネスが落ちかけ) > 1.50 は danger zone(急激な負荷増、怪我リスク最大)
traqqer はこの分類をそのまま色で表示します。
| 状態 | 色 | 意味 |
|---|---|---|
| Safe 🟢 | 緑 | 0.8〜1.3、最適ゾーン |
| Caution 🟠 | オレンジ | 注意域、調整が必要 |
| Danger 🔴 | 赤 | 1.5超、強い怪我リスク |
| データ蓄積中 🔵 | 青 | 28日分の入力が揃うまで |
「がんばっているのに調子が出ない」「なんだか張りが取れない」。そんなときに ACWR を見ると、たいてい 1.4 を超えていたりします。主観の「ちょっとしんどい」を、客観の数字に翻訳してくれるのがこの指標の価値です。
注意点として、ACWR は単独で怪我を完全に予測するものではなく、近年では「数字を盲信しすぎるな」という批判的なレビューも出ています。あくまで自分のトレンドを見るためのコンパスとして捉えてください。
3. コンディション平均
traqqer ではトレーニング記録時に「今日のコンディション(1〜10)」も任意で入力できます。これの平均は ACWR と独立した「主観的な調子」のトレンドで、ACWR が悪化する前の早期警戒シグナルとして機能します。
RPE データの3つの読み方
traqqer の統計画面を毎週見るなら、以下の 3 つを意識すると効果的です。
読み方1: 急上昇していないか(前週比1.5倍以上は黄信号)
ACWR が 1.5 を超えた週は、翌週以降に肉離れや疲労骨折が起きやすいというデータがあります。急性負荷(オレンジ)と慢性負荷(緑)の2本線で表示されるので、オレンジが緑を大きく超えた瞬間が要警戒です。
読み方2: 同じメニューで RPE が上がっていないか
「先週のジョグは RPE 4 だったのに、今週の同じ距離が RPE 6」。これは 疲労が抜けていないサインです。客観的タイムが変わらなくても、RPE が上がるなら回復が追いついていません。メニュー頻度リストと組み合わせると、メニュー別の RPE 傾向が見えてきます。
読み方3: コンディションスコアと合わせて見る
ACWR が Safe でもコンディションが下がり続けていたら、身体ではなくメンタル側に原因があるかもしれません。traqqer のダッシュボードで 3 つの指標を並べて見られるのは、こうした多面的な判断のためです。
まとめ
RPE は、ガジェットも特殊な計測機器もいらない、最も民主的なトレーニングデータです。練習後 10 秒、スライダーを動かして数字を残すだけ。それを 28 日分積み上げると、ACWR という形で「今、どれくらい無理しているか」を可視化できます。
traqqer の統計機能は、難しい計算を全部裏でやってくれます。あなたがやるのは「ややきつい」「とてもきつい」を数字で残すこと、それだけです。
次の練習が終わったら、ぜひ RPE 入力を一度試してみてください。1 ヶ月後の自分は、感覚ではなくデータで自分を語れるアスリートになっているはずです。